白い巨塔

 白い巨塔 山崎豊子

ISBN: 978-4101104331

2003年のドラマで有名な作品。

原作は昭和39年(1964年)に発表され、2003年以前にも何度かドラマ・映画化されています。

少し調べてみるとドラマと原作では焦点が違うらしく、ドラマでは往々にある様に若干設定も変えられています。まだ原作を読んだだけですが、原作ではあとがきに書かれている通り人間模様の描写が圧巻です。もちろんドラマなどでも話題になった様に、医学界の封建制度、医療裁判、権力争い、道徳心など、どの部分でも秀逸な作品となっています。

 

個人的に読後の印象で最もなのは「道徳心」でした。

医師として人命を救うのは当たり前の事だと言われますが、それを実行するのはとても大変です。医師も人間で一人一人違いがあり、それぞれに野心、誘惑、健康状態、経済状態、人間関係など様々な要因が有ります。その中で信念を持ち、当然と云われる事を行う事の難しさは計り知れません。

 

たまたま僕は以前仕事で個人病院の設計担当者になり、その時に施主である医師に数多く怒られました。その時に言われた数々の言葉は未だに貴重な成長の糧となっていますが、その中でも一番印象に残っているのが次の言葉です。

「建築と言うのはいい加減ですね、間違えたりミスが起きても簡単にやり直すと言い、それが当たり前の世界。なぜ最初からそれらが起きない様に全力でやり、起きないような努力や開発をしない?医療では一度のミスでも取り返しの付かない事になり、時には命を奪う。ミスは有り得ない事なのです。」

ミスした事に対しても怒られましたが、それ以上に姿勢について言われました。救われたのは僕個人ではなく、その時に関わっていた人間全てに言われた事でしょうか。

これ以来仕事に対する道徳心に気をつける様になりました。

・コスト重視の為、デザイン優先の為の、機能性の低下

・自分本位から起きる、周辺環境への影響無視

・忙しさを理由にしての検討不足

・面倒臭さ、勉強不足からの前例重視

など、建築業界にも沢山の問題があります。

もちろん、これらは建築単体で考えると悪例ですが、別の視点から見ると良例になるものもあります。しかしその差を埋める事は、どちらにも良い事になり必要な事です。

 

この作品では医療業界を舞台にしていますが、問題としている内容はどの業界にも当てはまりますし、仕事だけでなく人間関係が生じる時には家族内でも起こる事です。人命を扱う医療によって扱うそれぞれのテーマの対比を強くし、反論をする隙を与えていません。作者の意図とは離れてしまっているのかもしれませんが、それ程この作品は強いです。

 

登場人物は強いだけ、弱いだけの人間では無く、両面を持ち合わせていますし、欲物の様な人物もいます。しかしそれら全ては現実社会にも同じ様に存在し、自分自身に影響を及ぼしてきます。逆に同様に自分自身が影響を与えています。自分がどれに当てはまるか、どれになりたいか、と感情以上のものを移入して読む事ができます。