鬼平犯科帳 - 池波正太郎
池波正太郎の代表作と言えば「鬼平犯科帳」「剣客商売」「仕掛人・藤枝梅安」の3シリーズでしょうか。その中でもこの鬼平犯科帳を推す人が多いと思います。
僕が最初に池波正太郎作品を読んだのは「真田太平記」で15年くらい前です。その後、戦国・幕末・エッセイと池波作品は読み進んで行ったのですが、何故か3大シリーズだけは読んでいませんでした。様々な人から面白いと言われたりしたのですが、何故か読んでいませんでした。
今回やっと読みまして、皆が面白いと言うのが解りましたし、色々な所で内容以外でも評価されているのが解りました。
小説として話しが面白いのは当然の事として、その他にも江戸市井の描き方や当時の文化への造詣、組織としての成り立ちや立場ごとの考え方・対処の仕方など、現代にも通ずる事が書かれているからでしょうか。
そしてこれら以上に、池波氏が作品を通じて訴えている人間の生き様や矛盾、考え方に共感する人が多いからだと思います。
しかし面白い事に、人々の人情や考え方・街並み・文化・食事など様々な事に対して細やかに扱われているのですが、描写は細かくない。登場人物の顔つきも大雑把に書かれているし、池波氏の作品では特に絶賛されている食べ物も細かい作りかたや味付け・描写が書かれている訳でもない。文章を上手く書くのは書き手として当然の事で、その先の作者と読者の呼吸を合わせる具合が絶妙なのだと感じます。
また、鬼平犯科帳自体は池波氏の初期に始まり、少しずつ間隔を長くしながら亡くなるまで書かれた作品のため、作風が微妙に変わっていると個人的には思います。初期といっても小説家として10年ほど経ってからの作品で、それ以前には劇作家として活躍していた背景があるので根本的な池波節は始めから存在している。だが、先に書いた人間への考え方や読者との呼吸が巻数を追う毎に深くなっている。個人的には12.3巻くらいから顕著に現れていると思う。
それは同時に主人公の長谷川平蔵、それを取り巻く人々の考え方・動きの変化として現れている。池波氏は人間の考えの変化、時には人間の矛盾というものを「当たり前の事」むしろ「それこそが人間」としているので、その変化こそが池波氏の真髄となり鬼平犯科帳の人気にもつながっていると感じます。
小説だけでなく、映像化されており、しかも池波氏が強く監修しています。元々劇作家だった池波氏監修の映像なので、そちらも期待できます。その様な面も含めて長く楽しめそうです。