剱岳〈点の記〉

剱岳(点の記) - 新田次郎
ISBN:978-4167112349

映画化もされた作品です。
映画は観る習慣が無いので観ていないですが、原作であるこの本を読む限りでは超えるのは大変だと思います。

タイトルは「剱岳(点の記)」ですが「点の記(剱岳)」とする方が正しいような気がします。
この本は剱岳の物語ではなく、点の記の物語であり、明治40年の測量官柴崎芳太郎を中心とした測量隊の物語として読むのが作者の意図に合致し、作品に対しての礼だと思います。

元々地図は好きで、マニアでは無いですが集めていたりもしました。知り合いが海外旅行に行く時に「土産は?」と聞かれると「現地の地図をお願い」と言っていました。そして現在建築をやっているので、元々土地や測量・作り出す事は興味が有ります。この本は基本的に地図を作るための測量の仕事にまつわる物事が書かれているので、その作業の内容も書かれています。実際に読むと地図を作るまでの大変さがひしひしと伝わってきます。
まずその事で圧倒される。
当然ですが、地図を作るには対象の土地を訪れ歩き回り測量しなければならない。測量は道路工事などで見られる様に、望遠鏡の様な物で除いて距離などを出しているので、原点と対象点の間に障害物が無く見通せなければならない。そうなると高いところを測るのが効率が良くなり、結果的に山の頂上を結ぶのが良いとなります。もちろん想像を超える様々な測定などがあるので一概には言えませんが、大きな感覚では山の頂上を結ぶのが効率が良いです。後は精度を上げる為に、その範囲を狭めてメッシュを細かくしていけばどんどん精密な地図が作れます。

言葉で書くのは簡単ですが、実際にそれをやるには「測量機材を担いで山に登れ」と言うことです。
現代では測量機材も進歩して軽量化・小型化されていますが、明治40年頃は相当な荷物だと思います。そして山も今ほど開拓されておらず、登山道なども無くて山小屋も存在したのかわかりません。少なくともこの本では山小屋は出てきません。麓から有る程度登った所にある施設や寺社、案内人の家などをベースキャンプとしてそこからテントなどの必要資材を運びながら週単位で山に篭ります。それだけでも想像を絶します。測量官と言うより冒険家・登山家と呼んだ方が正しい気がします。

そしてこの本では、人が立った事が無いと伝えられている剱岳の頂上に立つことを命令されます。

調べると現在でも剱岳は国内では「一般登山者が登る山のうちでは危険度の最も高い山」と言われているらしいです。

しかし新田氏は剱岳に登る事を物語の頂点とせずに、柴崎測量官の仕事を伝える事を主題としています。そこに新田氏の主張があり、山では無く人を書いています。

あとがきも一般的な解説や作者の考えを書くのではなく、この作品を書くに当たって行った取材の記録になっているのも素晴らしいです。本編を読み終わった後の興奮を気づかない内に鎮めてくれます。

また個人的には登場する案内人の名前が、巻頭地図の尾根名などに見つけられるのにとても感動しました。裏方として扱われてしまう人が、しっかりと残っている事に地元の人・地図作成者・登山家などの気持ちが感じられます。

そして、色々と調べていくと三等三角点が設置されたのは2004年(平成13年)で、記録では選点日時は明治40年7月13日で選点者として柴崎測量官の名が記されている。また、明治40年に測量された剱岳の高さと、平成13年にGPSを使って測量された高さの差が1m程しか無い。
この事からも如何に困難な事に立ち向かい、奇跡的な結果を残した事が解ります。