2026年8月8日、KEY OPERATION小山さんによる「D-Scape Kanda」の内覧会へ参加してきました。着工前の仮囲い時にたまたま中高層の標識を発見してから、小山さんと会うたびに何かしら話題に上がっていた作品です。

【外部階段の扱い——垂直の路地として】
多くの方がSNSで感想を上げているこの建物。外観と避難・法規などの解釈を良い具合に解決している外部階段の扱いが印象的でした。外観を別にすると最初に思い浮かんだのが「表参道ヒルズ(安藤忠雄)」と「豊前の家(谷尻誠)」の2作品です。表参道ヒルズは中央吹き抜けに階段・スロープを配置し、全館避難検証法による竪穴区画の免除を用いていると思われます。豊前の家では廊下(路地・通路)という動線やサブの部分をメインに据え、裏表を逆転させています。今回の解説を読み、小山さんの意識にも通じるものを感じました。
小山さん自身も解説で触れていましたが、外部・上下動・別店舗・管理体制などの面で外部階段が完全な路地となるにはまだ課題があります。ただ、人間は上下の視線の抜けや動き、あるいは付近に通過という流動性を感じると良い違和感を覚えることが多いと思っています。(視線の抜けが少ない狭い空間や、囲まれて共用スペースが少ない環境で育った感覚の反動かもしれません。)今回のような飲食店ビルとはとくに相性が良く平面的に取り入れているところも多いですが、建築面積150㎡未満の10階建てで「垂直の路地」を実現したことは、とても実験的で意欲的な試みだと感じました。

【中間階の共用部という発想】
小山さんの新宿の商業ビルや最近見た他の建物でも、中間階に共用部を設けているものがあります。障害者用トイレ・喫煙所・管理室・休憩スペースなど用途はさまざまですが、こうした共用部を建物内に分散させ、移動・上下動を促すことで「垂直の路地」的な体験の実現に近づけないかと考えてしまいます。移動が大変という声もあるでしょうが、運動不足解消や省エネにもつながるはず。現実的には建築というより事業主・管理会社の領域ですが、先日伺ったKiGi AKIHABARAを担当した渋谷さんのように事業者側も変化しているので、まったく非現実ではないと思っています。
【法規と納まりの密度】
外部階段と竪穴区画という法的にイメージしにくい部分の周辺は、サッシやガラスの種類、設備の支持など法規・コスト面でも参考になるものが盛りだくさんでした。数ヶ月前に小山さんがSNSで他の建築家とこの解釈についてやり取りをしているのを見ていましたが、デザインは情報量だと改めて実感しました。
【軒裏】
この建物のもう1つの特色である軒裏。高さがあり外壁面を階段とすることで軒裏の面積が多くなると存在感を放ちます。昔「天井は第5の立面」と教わったことを思い出しました。
その存在感の最大の理由は量だと思いますが、もう1つ外壁(テラス腰壁)との対比もあります。解説でいくつかの外壁案を見ましたが、今回は諸々の理由から黒になっています。軒裏と同系の色や素材、あるいは明るい色系統であれば、照明を当てた際のメリハリは弱くなっていたでしょう。後から写真を見て気づいたのですが、外壁面の凹凸は多いものの手摺は外壁と面一になっており、外部階段も外壁と同系色で統一されているため、軒裏とそれ以外の対比がより際立っています。その間に入る植栽は色・形状的にケンカしない素材なので、余計に軒裏が引き立って見えます。

【計画上のポイント】
ボリュームから階段の処理・階高調整をしてスプリンクラーを回避する手法は好きなところです。基本計画の段階で検討することは多岐にわたりますが、引き出しをたくさん持っておきたいと改めて感じました。
また解説で話されていて建物には現れていませんが、外壁の色味と重厚・高級感の関係も気になりました。黒系で重厚感を出すのは理解できますが、非常に高級な建物には白系も登場します。ただしビルで白系はあまり見かけない。白系は石材やタイルなど別素材になりやすく、コスト・納まり・管理面で難しいのかもしれません。単純な疑問かもしれませんが気になったので、今後街を歩きながら意識して観察していこうと思います。
追記
元の文章はFacebookに投稿をしているのですが、それに対して小山さんが返信をしてくれています。
そちらもご案内します。
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こちらが設計時に考えていたことを汲み取っていただいただけでなく、そこからさらに次のステップへ思考を進めてもらったことに驚きました!
D-Scape Kandaでは避難や法規、設備、収益性といった、一般には建築の裏側に回りやすい条件をそのまま処理するのではなく、できるだけ都市との接点に変えられないかと考えていました。
「表参道ヒルズ」と「豊前の家」を挙げていただいたのも、とても興味深く拝見しました。用途や規模、成立している仕組みはそれぞれ異なりますが、本来であれば移動や避難のためのサブの空間として扱われるものを、建築体験の中心に置き直すという「メインとサブの逆転」という見方には、とても共感します。
D-Scape Kandaでも外部階段は必要条件として最初から存在するものでしたが、それを建物の裏側に隠すのではなく、テラスや植栽、店舗との関係を重ねながら、むしろ建物の性格をつくる場所にできないかと考えていました。制約によって生まれる要素を消していくのではなく、そこに別の役割を与えることで、結果として建築の主役が入れ替わっています。
一方で、「垂直の路地」と言ったとき、それが本当に路地として成立しているのかという問いはずっと残っています。路地には、ただ通り抜けるだけではなく、人が立ち止まったり、誰かの気配を感じたり、目的のない移動が生まれたりする余地があります。今回の建物では、その入口まではつくれたとしても、そこから先はまだ運用やテナント構成、管理のあり方に委ねられている部分が大きいと感じています。
廣瀬さんが書かれていた中間階に共用機能を分散させて上下動を促すという考え方は、その続きを考える上でとても面白いと思いました。便利さだけを優先すると建物の中の移動はできるだけ短く、効率的になっていきますが、あえて少し動く理由をつくることで、人の気配や偶然の出会い、街との関係が生まれることもある。そう考えると、共用部や設備、管理機能の配置も、単なる機能配置ではなく、建物の使われ方をつくる設計要素として考え直せる気がします。
さらに「KiGi AKIHABARA」を担当された渋谷さんのように、事業者側も変化しているという指摘も重要だと感じました。建築側が空間の可能性を用意しても、実際の使われ方や管理の仕組みが従来のままであれば、できることには限界があります。逆に、事業者や管理側も空間の使われ方に踏み込んで考えるようになれば、これまで建築だけでは成立しにくかった「垂直の路地」のような考え方も、もう少し先まで進められるのかもしれません。
軒裏については、我々は神田テラス設計時から「第二のファサード」と呼んでいました。通常の外壁面とは別に、街から見上げたときに水平面である軒裏がもう一つの外観をつくる、という捉え方です。廣瀬さんの「第5の立面」という言葉は、それを別の角度から捉えたもののようで、とても興味深く感じました。ファサードとして見るのか、立面として見るのかで少し意味は異なりますが、水平面が建築の外観をつくるという点では重なっていて、こちらの見方も更新された気がします。
作品を見ていただくだけでなく、そこから新しい問いを返してもらえるのはとてもありがたいことです。今回いただいた視点を、次の建物でどう具体化できるか、考えてみたいと思います。
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いつもとても御丁寧に返事を下さり、設計や拝見した際の疑問に答えをもらえるのでその次を考えるきっかけをもらえます。建築ではこのような積み重ねが必要だと思うのでとても贅沢な事だと思います。