義経

義経 - 司馬遼太郎
ISBN:978-4167663117

平家、平清盛から起こった公家からの政治分離(実際には鎌倉時代から)を書いた平家物語を読み、その平家の衰退から源氏の台頭を知ると、平家物語では書ききれていない部分が多くある事に気づきます。
何故平清盛が権力をつかむ事が出来たか?源平の関係は?平将門はどういう関係か?源頼朝はどのような人物か?義経の落ちていく経過は?など知識として結果を知っている部分に対する経過を知らない部分との落差が大きく、その穴埋めを欲するようになります。
その為に関係する本を読んでも、今一つ中途半端な状態で納得が出来ません。少しずつ解決される部分はあるのだが、根本的な部分が解らず消化不良になっていました。

この本もその様な動機から手にしましたが、結果としては解決せずに消化不良を残しました。
もちろん得る部分は多く、自分へ歴史の筋道を示してくれましたが、最終的な解決はなされないまま。具体的には頼朝との確執後の平泉までの事が書かれておらず、一番期待していた部分をはぐらかされた状態です。また他にも、歌舞伎などで有名な義経と弁慶の出会いや、弁慶の勧進帳、静御前との関係などが出てきません。

逆に絶えず描かれているのは、義経の生い立ちに影響される性格です。
歴史の物語の場合は結果から書かれるのでその原因付けが難しいのですが、様々な文献や人々のイメージから人物を形成して、その性格だからそのように行動したとするのが多いです。坂本龍馬だったら革命的とか、徳川家康だったら忍耐強いとか。殆どの作家が自分の中に独自の人物像を創り上げて書いていると思いますが、どうしても一般的なイメージに似通ってしまう。しかしこの作品では頑固なまでに作者の義経像に適合させて物語を続けているので、一般的と言うか、大まかな人物像は通説と変わらないが、細かい部分、しかし物語を進める上では重要になる部分にそれが出てくる。そのこだわりが強いので、結果としてとても独特な義経と感じてしまう。これは大小有るが他の登場人物にも通じる。

元々司馬遼太郎は自分の価値観で作品を書く事が多いが、「竜馬がゆく」などではその部分は文章のテクニックで表に出てきていないと思う。しかしこの作品では対象が古すぎるためか、脚色するにも時代に対する人々の固定観念が強すぎるので、独自の外的要因を加えるのが難しく、脚色の原因を性格に求めたのだと思えます。

ちなみにどの作者の義経を読んでも同じだと思いますが、義経を書くには頼朝が必要な為ある程度書かれています。逆に頼朝を書く場合は細かく義経を書かなくても物語を進める事が出来ると感じるので、頼朝の作品ではあまり義経は細かく書かれていないと思います。