今回の震災での建物への被害状況が少しずつ報道されてきました。
映像より想像以上の被害が出ているのは一目瞭然でしたが、規模が大きすぎる為に行政、学会などから建築物の被害状況調査は少し待つように通達されていました。まずは被災者への対応など、直接的な事を優先する必要が有るからです。
1ヶ月ほど経ち、現地にも立ち入る事が出来る様になりましたが、建物の被害状況、耐震診断など専門的な調査は外観調査しか出来ません。中に入って調査するのは余震が続く状況では何時倒壊するかわかりませんし、元々他人の持ち物、敷地なので無断で入る訳にも行きません。
震災などで調査する場合、規模や震源からの距離などの違いはありますが、基本的に建物が倒壊の危険が有るかを見ます。壁のひびや軽微な床の傾き、壁材の崩落、屋根材の崩落などは対象で無いです。もちろん今回の場合の浦安などの様に、震源地から遠い場所ではひびや傾きなどが対象になります。
建築基準法では今まで、大震災が発生する度に構造関係の大改正を行って来ました。
以外かもしれないですが凄く単純に浅く言うと、建築基準法では大震災に対しては「避難出来る範囲で倒壊しないこと」が基準です。もちろん色々な基準があってもっと細かい考え方がありますが、決して「無傷でいること」は謳っていません。恐らくやろうと思ったら無傷に近い建物を設計する事は可能だと思いますが、相当な費用と過剰が必要だと思います。現在の考えでは壁の厚さが200mmで良い所を800mmとか。それでも完全の保障は無いですが。
現在の構造設計の基本は、材料・構造形式・規模などで様々な構造の考え方が有りますが、コンクリートの塊の様に地震に対して力で耐えるのではなく、柳の様に力を逃がして耐える方法です。堅いと考えているコンクリート造も一部を除いては変形して力を逃がしています。以前やった仕事で、耐震能力を上げる為に壁にスリットを設けて柱と壁を分離すると言う、建築としては一般的な考え方の改修を行ったのですが、施主に対していくら説明しても納得してもらえなかった経験が有ります。確かに専門で無い人からしたら「耐震能力を上げる為に強固に造ってもらったのに、なぜわざわざそれを弱める事をしなければならないのか?」と思います。
一般的に考えて建物は木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造が殆どです。その他、紙・コンクリートブロック・鉄板・竹など数は少ないですが、色々な材料があります。また、基本的な構造形式もラーメン構造・壁式構造が代表的です。しかしどれが良い悪いでは無く、材料・規模・場所などによって長所・短所が有り、それを含めて設計者は判断します。決して「木造<コンクリート造」などの比較は出来ません。これは地震だけでなく、火事・防犯・断熱など様々な事に言えます。
今回の震災で現地の報告を見ていると、津波で流されてしまって正確には言えないですが、完全に倒壊している建物は少ないです。もちろん今後何時倒壊するか、余震で倒壊するかなどの危険性は大きいので立入禁止で解体する必要は有りますが、阪神大震災で多く見られたような低層部が完全に潰れてしまっている建物は殆ど見られません。
また、木造よりコンクリート造の方が被害が大きいです。これは様々な原因が有りますが、地震の振動数と建物の固有振動数が近似した事が大きいです。今回の地震の形式が直下型だったら、恐らく逆で木造の方が被害が多かったと考えられます。
しかし、現地の報告から考えると「倒壊しない」と言う方針を満たしている建物が多い事は、現在の建築基準法の内容で今回の地震に対しては一定の結果を残したのではと思います。
もちろん被害規模を抑える事や、都内の超高層ビルの揺れが想定以上の結果を残した事など様々な課題はありますが、全くの無力で無かった事は大きな力となります。
ただし、これは昔から変わらない考え方だと思いますが、建築で考えている耐震は「構造体」で考えていて、仕上げなどはそこまで厳密で有りません。もちろん仕上げなども壊れない様に強度を上げていますし、納め方なども考えれられています。しかし震災時の多くの建物の様に屋根材が落ちたり、ガラスが割れたり、壁にひびが入ったりする事に対しての厳密な基準は建築基準法では無いはずです。拡大解釈で各メーカーの自主規格と、JIS規格・JAS規格でカバーしているはずです。
しかし天井材が落ちてきて怪我を負う事などの方が実際には多いと思います。今回も天井材を止めていたネジの強度を越えた為に破断して落下したなどの被害が出ています。外壁のタイルや石などは結構丈夫に設計されていますが、天井材については結構落下しているので、直接的に被害につながるので今後の課題です。
また、海岸に近い実際の建物は想定しているのかも知れませんが、建築基準法では津波に対する検討は含まれていません。偉い人も都市計画や土木に任せてしまっていた面があったと課題に挙げています。知識としてコンクリート造の5階建てなど、到達する津波の高さをしのぐ高さでコンクリート造を造れば対応できると言う程度です。ただ原発や岸壁沿いに建てた特殊な建物などは、自主的に検討して設計していると思いますが。
しかし今回の様な津波に対して、木造建築を始めとする深い杭を必要としない小・中規模の建物はどこまで対応できるのかと思います。建物自体の強度を上げても、それが建っている地面がさらわれて、全体が浮いてしまう状態になってしまったらどうやって抵抗すれば良いのか思いつきません。建物の自重を重くして耐える方法は耐震の考え方の間逆なので厳しいですし、地中深くに杭を打って抵抗するのは強度・コストの面からどこまで有効かと思います。
今後、耐震などの強度だけでなく、オール電化建物への反動や、緊急時対応など様々な状況に対応できる様な建物が求められます。しかし先に想定している事に対しては対応出来ますが、全く考えも及ばなかった事に対しては対応出来ません。しかし原発の例を見なくてもそれは言い訳になってしまい、取り返しの付かない結果を招く事が有ります。そうならない為にも、普段から想像力を働かせて様々な状況を考えなければと思います。