偶有性操縦法(コンティンジェンシー マニュアル) 磯崎新

色々と賑わせた新国立競技場についての本。
ただし建築的に書かれた本なので、初見では理解出来ないと思うし、凄く好き嫌いの分かれる本だと思う。
前の事務所の所長から「読むべき」と言われてお借りした本。その所長は磯崎、レム・コールハースからの影響を受けていて、ある意味正統的な意匠設計者だと思う。
僕もその影響を受けて両者の著書を幾つか読んでいるけど、磯崎氏は考えは解る部分もあるけど作品は理解しきれない。逆にレム・コールハースは考えは理解出来ないけど、作品は好きな部分も有る。
最初に述べた通りこの本は完全に建築向け、しかも建築思想では無く、数年前に世間を騒がせた新国立競技場コンペに対する磯崎氏の考えを述べた本。話題が建築を超えて政治や報道が先行していた為に恐らく建築以外の人が手に取ったのが多いと思うが、個人的にはこの本のみを読んだ人は磯崎氏の掌で踊らされたのだと思う。
この本を理解するには著書の事を知っていなければならないと思う。
磯崎氏は1931年生まれの85歳。完全な現日本建築界の大御所。丹下研究室に在籍の頃から建築界に言論を持って切込み、今の建築思想を表現する事を確立化した急先鋒だと思う。
そして関係性として大事なのは、新国立競技場に対して最初に提言をしたのは同じ丹下研究室の先輩である槇文彦である事。恐らく槇さんが提言しなかったら磯崎氏はもっと厳しい言及をしたか全く相手にしなかったと思う。この本の様にお茶を濁していなかったと思う。
僕は新国立競技場に関しては槇さんの提言と、審査員であった内藤廣のコメント、専門誌の記事しか読んでいなくて、ワイドショー的なものは一切相手にしなかった。そして以前にも述べた通り、個人的な考えとしては原設計のザハ・ハディドの案でやるべきだったと思うし、それ以降は世界に対して日本建築界は汚点を残したと思う。
磯崎氏はこの本で色々言われた事に対する様な一切受身の事は書いておらず、自身が考える事のみを述べている。自身の経験や世界的な建築基準で考えている。そこが未だに世界でやりあえる強さなのだと思う。
新国立競技場の原案が破棄になった時に、今のオリンピック委員会の意向であるコストパフォーマンスの良い仮設を取り入れる風潮に対して、世界的に実績を残している建築家が「皇居前の二条広場で仮設の開会式場を開放する」と言う案を発表するのは素晴らしい。
恐らくザハ・ハディドを見出した人間として、新たな建物を建てるのは許せなかったのかもしれない。事態をザハを尊重して収束させる為に建築を造らない仮設広場を選んだのかもしれない。
この様にいくらでも考えられる本。
そして前半は好き放題散らかしている本です。
でも建築をやっている人間としては、沢山の人に読んで欲しいし理解して欲しい本です。