羊をめぐる冒険

羊をめぐる冒険 - 村上春樹
ISBN:978-4061836068

デビュー作「風の歌を聴け」、2作目「1973年のピンボール」から続く3部作の最後の作品です。
3部作だからそれぞれ個別で読むと意味が判らないかと言うとそうでもなく、単体でも成立します。しかしそれでは弱く、全体を貫くテーマ・雰囲気に違和感を感じるでしょう。

3部作を通じての「僕」「鼠」「ジェイ」という3人の登場人物が中心となり物語は進んでいく。しかしそれぞれは物語の主人公であるが「巻き込まれた」感で進んでいく。村上春樹の作品では主人公が能動的でなく、受動的なところに独特な雰囲気を持っているのだと思う。
そして受動的な主人公が能動的に変わって行く部分がこの作品の重要な部分で、他の作品にはあまり無い、空虚感をなくしきちんと収束感をもたらせてくれているのだと思う。他の作品ではぶつ切りの様に終わり、時に現実に戻ってくるのに苦労する場合があったり、読後すぐに何を言いたいのか判らない事が有ります。これは村上春樹の作品に限らず、文学と呼ばれているもの全般に感じる事ですが。

きちんと意思を持つ事。
当たり前の事だけど、これが全体のテーマではないかと思われてきます。
抗えない生活と淡々と進む社会。
そして新しい物事に流されていく時代。
想定されている時代はその様な、ある意味新しい時代ですが、そこに意志を持って生きていくという基本的な事を作者は書きたかったのではと感じるほど主人公は淡白で、起こりうる事を受け入れて、意思を持って前に進みます。

設定、状況、登場人物など現実離れしている部分は沢山あります。
しかしそれは作風であり、逆にリアリティーを持って書かれていたら堅苦しくて読めないと思う。
そのバランスを自分で取りながら読む必要があると思う。

なぜだか最後に「生きよう」と感じる本です。