施工図

建物を建てる時は設計者が図面を引きますが、造る時も施工者が図面を引きます。いわゆる施工図・製作図と呼ばれるものです。

この施工図。仕事をし始めた時は理解できず、「なぜ設計した図面を再度描くのだろう?」などと思いました。仕事を覚えていく内にその意味や必要性を理解したのですが、今でも色々考える事があります。

施工図を描く意図としては、設計段階では描かない細かい納まりや、メーカーごとに違う微妙な納まりを再検討する事や、造る人間が自分で作図する事で段取りなどを再検討する事などがあります。しかし一番の原因は、一般的には設計段階で描いた図面では正確に造れず、見積できず、不安がある事でしょう。
この事が良いか悪いかは建築に携わる人間でも意見が分かれると思いますが、僕としては「施工図は必要だが、現在はそれに各者、特に設計が甘えている」と考えます。

そもそも設計で描いた図面で施工が出来ないのが一番の問題なのですが、その原因は色々と有り、一言で言えないと言うか、誰も説明出来ないと思いますが、歴史と法律・職業意識から来ていると思います。昔は建物を建てる時は完成予想図を描いて、必要な部分の予想図を描いて造っていました。いわゆる「絵図面」といわれるものです。しかしそんな絵では建物は造れませんので、昔ならば奉行とか、旦那が現場に常駐して大工に色々と指示をして「あーじゃない、こーじゃない」と時には造っては壊して建てていました。要するに普請やら道楽です。民間の建物も似たようなもので、金持ちでなければ建てられなかったですし、もし建てられても簡単な略図を元に現場で指示が普通です。それに対して造り手の大工はせいぜい「木割」といった、伐採してきた木から出来た材木の大きさから割り付けた図面を描いたくらいです。でかい柱・梁は図面描くけど、それ以外は大工の腕次第が基本。

こんな感じで大昔から城や屋敷を建てていたのですが、明治頃だったと思うけど、建築家と言う職業が出てきて、設計だけをやる職業が出来ました。そうなると当然造るだけの職業も出てきて、それぞれの担当が分かれていくのだけど、それぞれお互いの事を知らなければ仕事が出来ません。

そこからずーっと時代は流れて、一応建物を建てる法律は有ったと思うけど、戦後に田中角栄が建築基準法を作って、そこからまた色々と。気付くと「造り方をしらないで設計したり」「使い勝手を考えず、描いている通りに作ってしまう」人達が専門家として多くなってしまいました。つまり設計者の仕事の内「法律に適合する建物を設計する」事と、それを申請する事に重心が寄ってきてしまったのでしょう。基本的に法適合を確認する事「確認申請」は建築士の資格を持っていないと出来ないですから。

要するに細かい納まりが判らなくても大体の形を描いてしまえば、施工者が一生懸命考えてくれて、ついでに持ち上げてくれて造ってくれるようになってしまったのです。

もちろんそうでない設計者、施工者がたくさんいるのも事実ですが、逆も事実です。
タイル割り、ボード割り、型枠割り、ピーコン検討などからサッシ開口、壁位置、目地位置などを決めて設計をするのが当たり前ですが、なぜかサッシとタイルの関係は施工図で検討となり、細かい止水の収まりもメーカー、施工者品質基準任せになってしまいます。本来は意匠と性能を考えて設計者がするものです。
基本的に造れるものを設計するのが設計者で、施工図を描くのも本来は設計者の仕事だと思います。品質や確認の為に施工者が雇った施工図を書く人も元を追えば設計者です。「建築家」と呼ばれる先生方もいますが、僕としては「建築家→設計者」ではなく「設計者→建築家」だと思うので、最低限の技術知識は持っていると思います。まあ、知る限りでは一線級と呼ばれる方々の図面はしっかりしていますが。

最終的な目標としたら、設計者が描いた図面のみで意図した通りに建物が造れる図面を描く事です。一般の人が聞いたら「何当たり前の事言っているのだ?」と思うかもしれませんが。
規格物の割付、サッシの納まり、意匠的な部分以外の詳細、設備機器の位置、スイッチの位置・配線など、全て細かく描くのが設計者の義務だと思います。その上で施工者がそれぞれの基準を満たす為や、金額が合わなかったり流通の都合などからメーカー変更する場合に施工図を描き、設計者に了承を取るというのが本来の姿ではないでしょうか。

実際にここまでやるには相当な技術と労力を必要としますが、それが設計者の必要最低限の技術だと思います。今の自分でどこまで出来ているかは課題が有りますが、現状の業界の流れに任せてそのままにしていると後で痛い目を見るのは自分です。まずは意識として自覚する事が必要だと思います。